棘姫

恭哉…待ってくれてる?


緊張しながらゆっくりドアを開けた。

その先には――




『「あっ……」』

いつも通り、私を待ってくれている恭哉の姿。

思わず声が重なる。



嬉しい…。
先に行ってると思ってた。

もう半分諦めかけてたよ。




でも、その反面なんとなく気まずいのも事実。


なんて声を掛けるべき?

第一声が中々浮かばない。


いつもなら普通に『おはよう』って言えてたのに。





『……おはよ』

何も言わずに視線ばかり泳がす私に代って、恭哉がいつものように言ってくれた。


「ぉ、おはよう」

ぎこちなくだけど、私も同じように返す。



『今日、ちょっと出てくんの遅くない?寝坊?』

「なッ…違うよ!!
この前の試験、寝坊で遅刻した誰かさんと一緒にしないでよね」

『あ、だから!!
あれは電池切れの時計が悪いんだって!!』

「はいはい。
もう、なん十回と聞いてます〜」


昨日の事を口にしない恭哉。

だから私も、あえてその事には触れなかった。


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