棘姫

放課後はあっという間にやってきた。

わざわざ教室まで来てくれた由愛と一緒に、名駅への電車に乗った。




『新装開店したショップがあるの。李羽が好きな感じだから。今日はそこ行こう』

由愛が雑誌を見せながら教えてくれる。

「そうなの?
行きたい、行きたい!!」



電車に揺られながら他愛のない話をする。


当たり前だけど、由愛はいつもと一緒。

私の前では素の"由愛"を見せてくれるし、特に何か変わった様子でもない。

私だけが変に意識してしまっている。





『――それで、ん?
あ……ごめん。メールきちゃった』

少し表情を曇らせ、由愛は携帯を開いた。

「あれ?
それ、変えたの?」

私は咄嗟に携帯を指差した。



由愛は一昨日会った時とは違う携帯を持っている。

いつもはキラキラにデコッたピンクの携帯なのに、今日はシンプルな黒の携帯。

ストラップすら付いてないなんて、由愛にしては珍しいかも。




『…あッ、コレ?
ちがう、変えてないよ。
あたしの携帯…ちょっと壊れたみたいで。今直してもらってんのよ。コレは代わりのヤツ。ほら、ショップで渡してくれるでしょ?』

そう話すと、由愛は気まずそうに視線を逸らした。


おかしい。
何かが変に感じる。

さっきのは、ちょっと言い訳がましくも聞こえた。


由愛…何か隠してる?

そう思いながらも、弱い私はやっぱりそれ以上は何も聞けない。



それに、気になるのは確かだけど、誰かの心に勝手に踏み込むようなマネはしたくなかった。

私だって、誰にも言ってない秘密があるんだから。



由愛の話に耳を傾けながら、必死に携帯の事を頭から消そうとしていた。


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