棘姫
以前と同様。
ファッションビルは相変わらずの人混みだった。
『その店、3階なの。
まず初めに行ってみる?』
「由愛がいいなら」
お目当ての店に行くため、エスカレーターに乗ろうとした時
『あれッ!!
もしかして、由愛ちゃーん?!』
いきなり背後から大声が聞こえた。
驚いて反射的に振り返る。
他のお客さんの視線が一点に集まっている。
そこには、こっちに手を降る女の子の姿が。
『………嘘、でしょ』
明らかに嫌そうな顔で由愛が呟いた。
誰なのかな?
分からない私はもう一度視線を前へ戻す。
女の子は隣にいた男の子に何か言うと、こっちへ走ってきた。
『やっぱり由愛ちゃんだぁ。あたし、目イイかも〜』
女の子は嬉しそうに笑う。
明るい髪色で人形のようなポニーテールが印象的。
満面の笑みを浮かべ、顔は笑っているけれど…それは心の悲鳴にも似た笑顔。
誰かに自分の存在を必死に主張しているよう。
何故か…初めて由愛を見た時のような、切ない気持ちになった。
『もう、相変わらずあんたは声が大きいのよ!!もう少し、周りの目気にしなさいよね』
由愛は呆れたような口調。
本当に自然と素の由愛を出せている。
どうやらこの子とは、
かなり親しい仲みたい。