棘姫
『ねぇ、李羽ちゃん』
「ぇ?」
『由愛ちゃんとは…ずっと友達でいてあげてね』
真剣な表情で意味深なことを口にするミノリちゃん。
なんで、急にこんなこと言い出すんだろ?
『ミノリ?
いきなり何よ』
由愛も首を傾げる。
そんな由愛に微笑んでから、ミノリちゃんは私の方を向いた。
『もし由愛ちゃんがすごく苦しんでる時があったら、李羽ちゃんには由愛ちゃんを助けてあげてほしいの。例え喧嘩したとしても…2人には変わるために、お互いが必要なんだと思うよ。李羽ちゃん。これ、ミノリからのお願い』
ミノリちゃんは心から訴えるように話す。
その言い方は妙に説得力があった。
『本当はあたしだって、由愛ちゃんの支えになってあげたいよ?
でもね……ミノリと由愛ちゃんじゃ、傷の舐め合いにしかならないんだぁ…』
焦点の合わない目でぼんやりと、ミノリちゃんが呟いた。
…私が?
由愛を助けられるの?
他人を中々受け入れず、拒絶してばかりの私が…誰かを助けることなんて出来るのかな…。
『もう、あんた急に変なこと言い出さないでよね。妙にしんみりしちゃったじゃない。ねぇ、あの待ってる人彼氏?』
話題を変えるように由愛が明るく言った。
『うーん。
彼氏、じゃないかな』
ミノリちゃんは恥ずかしそうに笑った。
『でも気になる人なの。
まだ一度もミノリに触れてこないんだよ。手だって繋いでないんだから。珍しいでしょ?』
男の人を見るミノリちゃんの横顔はとても愛しそう。
一緒にいることに、心から安心出来る存在なんだ。
『でも、なんかちょっと年離れてない?それに触れてこないからって、安心しちゃダメよ。男なんて…最初はそんなもんなんだから』
由愛は男の人に鋭い視線を送っている。
その言い方が少し気になった。
そこまで警戒するなんて、由愛は男の人との間に何かあったの?