棘姫

『ねぇ、李羽ちゃん』

「ぇ?」

『由愛ちゃんとは…ずっと友達でいてあげてね』

真剣な表情で意味深なことを口にするミノリちゃん。


なんで、急にこんなこと言い出すんだろ?



『ミノリ?
いきなり何よ』

由愛も首を傾げる。

そんな由愛に微笑んでから、ミノリちゃんは私の方を向いた。



『もし由愛ちゃんがすごく苦しんでる時があったら、李羽ちゃんには由愛ちゃんを助けてあげてほしいの。例え喧嘩したとしても…2人には変わるために、お互いが必要なんだと思うよ。李羽ちゃん。これ、ミノリからのお願い』


ミノリちゃんは心から訴えるように話す。

その言い方は妙に説得力があった。




『本当はあたしだって、由愛ちゃんの支えになってあげたいよ?
でもね……ミノリと由愛ちゃんじゃ、傷の舐め合いにしかならないんだぁ…』

焦点の合わない目でぼんやりと、ミノリちゃんが呟いた。



…私が?
由愛を助けられるの?

他人を中々受け入れず、拒絶してばかりの私が…誰かを助けることなんて出来るのかな…。





『もう、あんた急に変なこと言い出さないでよね。妙にしんみりしちゃったじゃない。ねぇ、あの待ってる人彼氏?』

話題を変えるように由愛が明るく言った。


『うーん。
彼氏、じゃないかな』

ミノリちゃんは恥ずかしそうに笑った。


『でも気になる人なの。
まだ一度もミノリに触れてこないんだよ。手だって繋いでないんだから。珍しいでしょ?』

男の人を見るミノリちゃんの横顔はとても愛しそう。

一緒にいることに、心から安心出来る存在なんだ。



『でも、なんかちょっと年離れてない?それに触れてこないからって、安心しちゃダメよ。男なんて…最初はそんなもんなんだから』

由愛は男の人に鋭い視線を送っている。


その言い方が少し気になった。

そこまで警戒するなんて、由愛は男の人との間に何かあったの?

< 108 / 134 >

この作品をシェア

pagetop