棘姫
諦めたような言い方だったけれど、ミノリちゃんは由愛にとって本音を語れる大切な友達なんだと思う。
やっぱり似た痛みを共有してるから?
正反対で特に共通点の見当たらない私には…由愛は話してはくれないのかな。
そう考えると、ちょっとだけ寂しかった。
「じゃあさ。
由愛は…何かバイトしてるの?」
一種の賭けでもある問い。
由愛はなんて答える?
『なんでそんなこと聞くの?』
さっきと同様。
由愛だって簡単には答えてくれない。
聞き方があまりにも直接過ぎたかな…。
「だってさ、周りの人はほとんどバイトやってるから。一応校則には"バイト禁止"みたいこと書いてあるよね。私はそういうの興味ないけど、由愛はどうなのかなって気になったから」
咄嗟に嘘を並べる。
納得してくれたのか、『あ、そういう意味ね』と由愛は気を抜いたように笑った。
『バイトはやってないよ。下手に先生にバレて謹慎食らうのも面倒だしね』
「そっか…うん、そうだよね」
口では納得していたけど、その言葉は本当なの?
『なんか今日の李羽、やけに質問魔ね』
口元に笑みを浮かべて由愛が言った。
「…え?
そうかな?」
『うん。
だって普段はあたしばっかが喋って、あんたは相槌打ってるのが多いでしょ?
でも今日は、何にも興味を持たなさそうな李羽からいろいろ聞いてくるからさ。なんか…ちょっと嬉しいわね』
ストローの先っぽを指で摘みながら由愛はくすぐったそうに笑う。
まるで由愛を裏切っているような気分になって…
私にその笑顔は、とても痛かった。