棘姫
いつも近くにいたから、その人のことを勝手に理解した気になってた。
すぐ隣にいれば、なんでも見えると勘違いしてしまうんだ。
でも、実際は違う。
「すぐ近くにあるからこそ…気付かないのかも」
自然と、私はそう零していた。
『何よ、急に』
クスッと笑いながら由愛は私を見る。
「だって、そうだもん。
すぐ近くにあるからそれを当たり前と思って、いつの間にかその大切さを忘れていってしまうの。近いからこそ、逆に見えなくなるものだってあるんだよ…」
昨日の恭哉との事で、改めてそれに気付かされたと思うの。
私は更に続ける。
「月や星だって同じ。
もし夜に月や星がなかったら、外は真っ暗だよ。光がない世界なの。
人間って成長していろんなことを知っていく内に、段々当たり前のことを忘れていってしまう気がするよ――」
私には卵巣がない。
だから、赤ちゃんを産めない。
”女の人なら赤ちゃんを産める”
普通の人にとって、多分それは当たり前過ぎること。
でもね?
みんな当たり前過ぎて気付いてないんじゃない?
その証拠に、今の世の中には”中絶”という方法が存在する。
もちろん理由は人それぞれ。
自分の意思とは反対に、無理矢理させられる人だっている。