棘姫
「…何?」
いかにも嫌そうな声であたしは電話に出た。
『もしも〜し?
彼氏のシュウ君でーす!!
”何”って、由愛ひっでぇ!!せめてもしもしくらい言おうぜ?』
煩い音楽を背景に、いつもより大きなシュウの声。
「ふざけないでくれる?
あんたと付き合った覚えなんかないわよ」
『冗談だって。
由愛はホントに冗談通じない奴だな〜』
シュウの声が笑う。
いつもよりテンションも高め。
…酔ってんのか?
『由愛今どこ?』
「…家」
『短っ!!
俺今飲んでるんだけど〜、由愛も来ねぇ?』
「だから、
あたしは酒飲まないって。何回言えばわかんの?切るよ?」
一方的に喋って電話を切ろうとした時
『ミノリがかなり泥酔してんだよなぁ…』
呆れたように小さく漏らすシュウ。
「…ミノリもいるの?」
ボタンを押し掛けた指を止める。
『あぁ。
なんか初めは男がどうのこうの…って泣いててさ。酒飲みまくったんだよ』
あたしの脳裏には、昼間見た年上の男と歩くミノリの姿が浮かぶ。
ミノリが泣くなんて珍しい。
あの子はいつでも笑っていた。
あたしと似た境遇。
自分も辛いはずなのに、滅多に笑わないあたしとは逆に決して笑顔を絶やさなかった。
昼間は特に幸せそうに笑っていたのに。