棘姫
秘密
私の右手にはユキナちゃんにあげるための四葉。
それを見ながら、今日の出来事を思い出す。
あの子が四葉を受け取ってくれてよかった。
断られるかも…。
ってドキドキしてたから、戸惑いながらも手を出してくれた時は、本当に嬉しかったんだ。
あの子はすごく寂しい瞳をしていたよ。
この世界の綺麗なモノ全てを否定するような言い方をしていたけど、
綺麗事を否定する人こそ本当は幸せを求めてるのかもしれない。
でも、そう簡単に"幸せ"なんて掴めないから、綺麗事を否定したくなるんだと思う。
あの子は必死に何を求めていたのかな?
『なんか、珍しく嬉しそうな顔してんな』
隣を歩いていた恭哉がからかうように笑った。
恭哉は私の隣を自転車を押しながら歩く。
自転車に乗ればいいのに、わざわざ私に合わせてくれてるんだ。
本当に優しいね。
恭哉と私は家が隣同士。
私が小さい頃ここへ引っ越してきたから、幼馴染みとはちょっと違う。
高校も一緒だから、ほぼ毎日一緒にいるような気がする。
『なぁ、李羽。
さっき一緒にいた子、友達?』
思い出したように恭哉が言った。
「うーん…友達になりたいな」
『…はぁ?
あの子、誰なんだよ?』
呆れたのか苦笑いする恭哉。
今、気付いた。
あの子は誰なんだろう。
名前すら知らないよ。
どっかで見たことある気はするんだけどな。
「わかんない。
でもね、なんか気になるの」
『へぇ、友達作ろうとしない李羽にしては珍しいな』