棘姫
月曜日。
私は放課後、病院へ向かった。
分厚い辞書に挟んで押し花にした四葉。
喜んでくれるといいな。
いつものようにナースステーションで看護士達に挨拶する。
人数がいつもより少ないのに気付いた。
少し違和感を感じながら病室へ。
ドアを開ける。
そこに、いつも笑顔を見せてくれる少女の姿はなかった。
空っぽのベッド。
どこに行ったの?
『あ、李羽ちゃん?!』
呆然としていると、顔馴染みの看護士に肩を掴まれた。
「あの、ユキナちゃんは?」
『それが、あの子…急に吐血したのよ。容態が悪化して、さっき手術室へ運ばれたわ』
「…ぇ……?」
目の前が真っ暗になる。
2日前は元気に笑ってたのに…。
今日、四葉持ってきたんだよ――
綺麗事は口だけで終わっていってしまうの?
どれだけ純粋に信じても、"ただの草"には何の力もないのかな…。
やっぱり運命は残酷だね。
心から他人の幸せも願える少女の体を蝕むなんて。
私は…素直にそんなこと出来る子じゃない。
冷たくて優しささえ平気で跳ね返す、他人を平気で傷付ける子。
もう、未来に明るい光なんか見い出せない。
夢や希望も抱いてないよ。
生きたいと願う子供達がすぐ側にいるのを解っていながら、生きることすらどうでもいいと思うようになった私。
本当に情けない、
最低な人間。
枯れていくなら、私の命を選べばよかったのに…―
窓の外へ目をやる。
丁度枯れ葉が風に遊ばれていた。
散っていく。
ヒラヒラ舞い落ちる。
窓ガラスに映る私自身は、冷めた目でそれを見つめていた。