棘姫
探し物
『セフレになんない?』
行為の後、着替えているといきなりの男からの一言。
あたしは目を丸くした。
何言ってんだこいつ。
セフレになる?
冗談じゃないわ。
そういう相手が欲しいならもうとっくに見付けてる。
『俺さー結構金持ちなんだよね。それに一々相手探すより、顧客っていうの?作っといた方が楽じゃない?』
男はあたしの横に再び腰を下ろす。
『由愛は可愛いからさ。
俺、また会いたいな』
肩に腕を回され、耳元で呟かれる。
気持悪い…。
そんなに近寄らないで。
あたしは誰かにすぐ側に来られるのが苦手。
学校では友達に囲まれてるけど、誰一人として心への侵入は許さない。
いつも必ず距離を置いて接するようにしている。
女子でさえ近付けたくないのに、なんでこんな奴がすぐ隣に…
『ん。
これ俺のメアド』
男が携帯を差し出す。
あたしはそれを受け取り、あたかも登録するような動作をした。
『後でメールくれよな』
満足そうに笑う男に対し、あたしも微笑みだけを返した。
あたしがあんたにメールするなんて一生有り得ないことよ。