棘姫
外に出ると、いつもより騒がしくて道の真ん中に人の輪が出来ていた。
興味本意に近寄る。
輪の中心には倒れている二人の若い男。
多分、急性のアルコール中毒ってとこだろう。
倒れている奴らもバカだけど、周りを取り囲む人の行動も面白い。
『大丈夫か?
もうすぐ救急車来るからな!!』
と本気で心配してる奴の横には、酔っていてニヤニヤ笑いながら、面白そうに2人の様子を見物している奴。
大半の大人がこっちの人間。
人を気遣える優しい人間と他人の不幸を喜ぶ人間。
こんな状況では、それぞれの人間性が表れて面白い。
遠くから救急車のサイレンが聞こえる。
こんなもの、見てるだけ時間の無駄ね。
あたしはクルリと踵を返す。
次の瞬間、
強い力で肩を掴まれた。
『由愛ちゃんだよね?』
立っていたのはこれまた知らない中年の男。
誰だっけ?
『前、メルアド教えたでしょ?ずっとメール待ってたのに、由愛ちゃん全然くれないんだもんな』
「あ、ごめんなさい。
あたしもメール送ったんですけど、アドレス間違ってたみたいで。返ってきたんです」
一応話だけ合わせることにした。
無視したいのに、肩を掴む力が強くて振り払えない。
『そうだったのか。
じゃ、また教えるからさ。今から相手してよ』
男は強引にあたしの手を引き歩き出そうとする。
土日なら二人くらい平気でヤってたけど、平日はさすがにキツイ。
今はそんな気分じゃないんだ。