棘姫
「あの、ごめんなさい。
あたし今からはちょっと…」
立ち止まり控え目に言ってみる。
『え、ダメなのかい?
由愛ちゃんに会いたくて、毎晩この辺探してたんだよ?』
男は中々手を離してくれない。
毎晩探してたとか、まるでストーカーじゃない。
本当に気味が悪い。
「でも、あたし今日は本当に無理なんで。また今度にしません?」
本心を抑えてなるべく優しい口調で話しかける。
なんだかイライラしてきた。
今すぐにでも走って逃げ出したいけど、警察沙汰になると面倒だしな…。
足止めされて数分が経過した。
あたしはなんとか断ろうとするけれど、男は全く折れてくれない。
こういう奴が一番大嫌い。
こんな年下の女とそういう関係築いて、恥ずかしいとか思わないの?
ま、援交なんてバカな大人がいないと成り立ちはしないけど。
稀に見るしつこさにうんざりしてきた。
もう本気で逃げ出してやろうかと思い始めた、その時。
『ちょっとおじさん。
この子嫌がってるでしょ』
あたしより少し高い位置から救いの声が降ってきた。