棘姫
『別に、あんたが恭哉君をどう思ってるかなんて、あたしが口出しすることじゃないと思う。
けどさ、自分の気持ちに嘘吐いて…自分で自分を苦しめるのは…とても辛いことよ』
由愛がいつもとは違う、小さな声で言った。
表情はとても切ないものだった。
その言葉は私に対してでもあったけど、由愛自身に対しての言葉でもあったんだね。
普段は自分を作り強い女を演じているけれど、時々由愛は必死に押し殺している弱い自分を表面に出すことがある。
その表情は、見てるこっちまで息が詰まりそうになってしまうの。
あなたの背負うモノを、
少しでもいいから…私が軽くしてあげることは出来ますか?
夕方。
家へ帰るため、私は一人電車に揺られていた。
由愛とは駅で別れた。
なんでも、用事で行くところがあるらしいとか。
由愛と遊んだのは初めてだったけど、そんなに気を遣わなくても済んだ気がする。
由愛は放課後とかもよく、遊びに来る。と口にしていたけど…お金持ち、なのかな?
だって、遊びに来るのには当たり前ににお金が要る。
それに
由愛が会計を済ませている時、隣にいた私には財布の中身も見えてしまった。
財布には、
お札が押し込まれていた。
金額なんて、全く気にしていないような入れ方。
あの入れ方には正に"押し込む"という表現がピッタリ。
やっぱり高校生だから、バイトでもしてるのかな…。
普通なら、これは羨ましがることなのかも知れない。
でも、どうしても…私からは変な不安感が消えてくれなかった。