棘姫
そうこう考えてる内に電車は駅に着いた。


日が沈み、
暗くなり始めた道を歩く。

まるで今の気持ちと比例しているかのような、静かでどんよりとした曇り空。


早歩きで家へと急いだ。






家のすぐ近くまで来た時、こっちへ近付く足音が聞こえた。


立ち止まり、
目を凝らす。

私のすぐ横を女の子が駆けていった。

薄暗いし、俯いていたから顔はよく見えなかったけど、確に泣き声が聞こえた。




前へ視線を戻すと、よく見慣れた景色が目に飛込んでくる。

その中に佇む人が一人。


……恭哉?




私の家の隣。

恭哉は玄関先に立って、顔を片手で覆い、深い溜め息を零していた。




『……ぁ、おかえり』

私に気付いた恭哉がいつもの笑顔に戻る。


「…ただいま。
どうしたの?
外になんか出て」

『んー?
李羽が帰ってくるような気がしたから』


カッコつけたことを口にする恭哉に、思わず吹き出してしまった。


「ぇー、嘘だぁ!!」

『ひどっ!!
冗談でもありがとうって言っとけよな』


笑い合った後、珍しく私達の間には沈黙が流れる。



…なんでだろう。

恭哉はこうして目の前で、手を伸ばせば触れ合える距離にいるのに…

言い表せない不安が、さっきから心に積もっていくよ。




冷たい冬の風が吹く。


何も言わずに、
恭哉はただ立ち尽くすだけ。

寒かったけど、私も…何故かその場から動けなかった。


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