棘姫
「ちょっとミノリ、しっかりしなって!!」
ニコニコしているミノリの頬を軽く叩く。
『由愛ちゃん、痛いよ〜』
ミノリはヘラヘラ笑いながら、暴力はんた〜い!!、と拳を上に突き上げる。
一緒にいるこっちが恥ずかしくなってきた。
こんな時こそ赤の他人のフリをしたいけど、酔っているミノリをこのまま見捨てる訳にもいかない。
ここは夜の仕事が立ち並ぶ通りだ。
放っておけば、
何をされるか分からない。
フラフラなミノリの肩に手を回し、あたしはとにかくこの通りから出ることにした。
幸い、駅周辺を見張っている警備員に見付かることなく、近くのファーストフード店に入ることが出来た。
ただでさえ、人目につきたくないのに『スマイル下さぁい!!』なんて店員相手にふざけるミノリが恥ずかしくて堪らない。
人の少ない店内。
一番奥の席に座った。
「ほら。
これ飲んで落ち着きなって」
さっき買った烏龍茶を差し出す。
ミノリは渋々それを口に運ぶと、しばらくして少しは落ち着いたのか、きちんと座り直した。
「あんた、なんで最近酒飲むようになったのよ?前は全然興味なんて示さなかったじゃない」
心配してるのか、呆れてるのか…自分でもよく分からない気持ちで質問する。
『だってぇ、お酒飲むと楽しいんだもーん。由愛ちゃんも〜飲めば?』
ヘラッと笑うミノリ。
楽しい、って…
ただ単に酔って現実逃避してるだけじゃない。
あたしは酒を飲みたい、
とは思わなかった。
矛盾してるけど、自分を失うような事だけはしたくない。
飲酒と喫煙。
どちらも法律で未成年は禁止されている。
でも、そんなのこの街では関係なかった。