棘姫
『ずっと…
由愛を探してたから』
蒼と視線が交わった。
今日、初めて名前を呼んでくれたね。
『なんかストーカーみたいでいやらしいけど…。兄貴が働いてる店に出入りさしてもらって、ずっと由愛を探してたんだ。
また変な奴に絡まれてんじゃないか?どっかの妖しい店から声掛けられてないかな…って、心配で…』
蒼の声は段々小さくなっていく。
こんなにも小さいのに…あたしの心に直に響くのは
何故?
少しでも気を抜けば涙が出そうな程、あたしの心はグラグラ揺れていた。
「黙って様子見てるくらいなら、声…かけてよね…」
気付けば、あたしはこんなことを零していた。
強がってない、
初めての素直な気持ち。
『ごめんな…。
でも、今日は止めれてよかった』
小さな子供をあやすように、蒼はあたしの頭を撫でる。
その、とても優しい手付きに…思わず涙が頬を伝った。
自分でも、何故泣いてるのか理解出来ない。
何も悲しくないのに、
どこも痛くないのに…
どうして涙が出てくるの?
あたしって、こんなにすぐ泣ける奴だっけ?
理由も分からないまま、あたしは涙を流し続けた。
何も言わずに、蒼はただあたしの頭を撫でてくれていた。