棘姫

普段何事にも冷めてるあたしにしては珍しく、頭が混乱してしまっている。

比例するように、
鼓動も早くなってきた。




『やっぱ、ダメ…かな?』

途端に蒼の表情が曇る。

「あ、ちがっ…!!
えっと、全然平気!!」

誤解されたくなくて、変に力んだ返事になってしまった。


『マジで?やった!!』

蒼が本当に嬉しそうな、あどけない笑顔を見せてくれた。

頬が一気に熱を帯ていく。




普通なら、まだ2回しか会ってない名前しか知らないような男とお金を払わずにデートするなんて、あたしには考えられないこと。


でも…
蒼は違う気がするの。


こうしてすぐ隣にいても、嫌とは思わない。

下心なんて全く感じさせない。


不思議と、安心感に包まれる気さえするんだ。

男だけど、蒼は…

もう一度信じられるかもしれない。





『なら、1時に駅の金の時計の下で待ち合わせ。あ、わかるよね?』

「当たり前じゃない。
1時に時計の下ね。あたし、女を待たせる男は嫌いだからね?」

"遅刻しないで"
そう遠回しに言ってみる。


『わかってるよ。
それじゃあ…楽しみにしてるから』

柔らかく微笑んで、蒼は帰って行ってしまった。

その背中は何故か…小さくて、寂しそうに見えた。



――なんだろう?

ただ遊ぶ約束をしただけなのに、自然と頬が緩んでくる。

李羽から四葉を手渡された時のような、少し甘酸っぱい気分。


いつもより軽やかな足取りで、あたしも公園を後にした。




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