棘姫

元々医者からは警告されていたらしい。

『もし、出産したとしても…お母さんか赤ちゃんのどちらかは助からないでしょう』


それでも、母親は自分の命と引き換えにあたしを産んでくれた。

果たしてあたしは…

由愛は、誰かの命を犠牲にしてまで産まれて良かったのだろうか?





物心付いた時には、あたしは施設にいた。

理由は家族がいなかったから。




あたしの母と父は、籍を入れてはいなかった。

両親に反対されながらも同棲していたらしい。


でも、あたしが産まれる前に父は母の前から姿を消した。

恐らく、元々遊び半分の付き合いだったのに、予想外のあたしがデキてしまったから。



母は両親とは縁を切られていたので、たった一人で出産を迎え、帰らぬ人となった。

そして、ちぃちゃんは両親と大喧嘩までしてこんなあたしを2歳の時に引き取り、この街に引っ越してきた。



疎まれる存在だったあたしを、唯一見放さないでくれたのだ。

まるで、実の娘のようにあたしを育ててくれている。




でも――

ちぃちゃんの女としての幸せを、あたしは奪ってしまったんだと思う。


あたしが小学生の頃。
ちぃちゃんには彼氏がいた。

結婚を前提に付き合っていたけど、あたしの存在を知った途端…てのひらを返すように別れを切り出したらしい。




一人の命を犠牲にしてまで産まれた。

あたしを助けてくれた人の、幸せを奪った。


あたしは自分と関わる人を、不幸にする事しか出来ないんだよ…。



こんなあたしに、存在価値なんてあるのですか?



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