棘姫
そうこうしてる間にも日々は流れ、心待ちにしていた土曜日がやってきた。
朝からシャワーを浴びて、着ていく服も時間をかけて選ぶ。
濃くし過ぎないよう気を付けながらメイクをして、髪だって緩く、丁寧に巻いていく。
誰かと出掛けるのに、こんなにもドキドキしながら準備をするのなんて…
いつ以来だろう?
”蒼に少しでも自分を可愛く見せたい”
まるで初デートを控えた少女の気分。
胸を踊らせながら、あたしは時計が約束の時間を示すのを待っていた。
ちょっと余裕を持って15分前に待ち合わせ場所、金の時計の下へ向かった。
時計の下ではあたしの他にも数人の少女が、それぞれの想い人を待っている。
当たり前だけと、その少女達が着ているのは普通の私服。
キラキラした華やかなドレスで着飾った女なんてどこにも見当たらない。
いつも目にしているからか、すっかり見慣れてしまったキャバ嬢とのギャップがおかしかった。
みんな彼氏に"可愛い"と言ってもらいたくて、おしゃれ頑張ったんだろうな。
昼間に蒼と会うのは初めて。
醜い自分を夜の闇で隠していたあたしを、この明るい光の下でも…
あなたはちゃんと見付けてくれるの?
『だーれだっ?』
無邪気な声と共に、
突然真っ暗になる視界。
この声――
「…蒼でしょ。
あたしをいくつだと思ってんのよ」
自然と頬が緩んでいく。
振り返ると、いたずらっ子のように笑う蒼がいた。