棘姫
『当たり。
どう?ちゃんと遅刻しないように来たよ』
蒼が頭上の金時計を指差した。
針は55分を示している。
「何よ、偉そうに。
女の子より先に来るのは当たり前でしょ」
『由愛には口じゃ敵わないな。
…あ、その服。可愛いじゃん』
軽く、蒼の指先があたしの腕に触れる。
たったそれだけなのに、一気にその一点に熱が集中していく。
『女の子が白いワンピース着てるのって、なんか冬っぽくていいよね』
オーバーじゃなくてさりげなく、蒼はあたしを褒めてくれた。
蒼の言う通り、今日のあたしはワンピ姿。
それも珍しく白の。
普段のあたしは滅多に白なんて着ない。
どっちかと言うと黒系が多かった。
あたしみたいな子が…白を着ても意味がない。
変な話だけど、そんな気がしてたんだ。
でも、蒼には黒より白が合うと思っていた。
白を選んだのは正解だったみたい。
『行こっか』
蒼と肩を並べ、駅前を行き交う人混みにあたし達も紛れて行く。
ふと、蒼の横顔を見上げる。
昼間にこんなにも近い距離で蒼を見るのも初めてだ。
蒼もあたしも、いつも会うのは夜の闇の中だったね。
前から綺麗とは思っていたけれど、こいつ…本当に整った顔付きしてるな。
回りが明るいので、改めてそれに気付かされる。
すれ違う他の男と比べてみても、見劣りしない容姿。
こんな綺麗な奴の隣を、あたしなんかが歩くのは罰当たりなんじゃない?