棘姫

そんなことを思いながら歩いていると


「…ぇ、キャッ!」

『由愛?!』


何もないとこなのに、自分の右足に左足を絡まらせバランスを崩した。

それに気付いた蒼があたしを支えてくれたので、転びはしなかったけど。


なんて間抜けなんだろう…。




『大丈夫?
足、痛くない?』

蒼の手を借りてなんとか立ち直す。

「ぁ…ありがと。
ちょっと考え事してたら、つい…///」


恥ずかしくて…顔を背けながら言うと、必死に押し殺しているような笑い声が聞こえてきた。




「わ、笑うことないでしょ!!」

照れ隠しで大きめの声で言いながら蒼を見る。

口元に手を当ててやっぱり笑いを堪えている様子。



『ごめん、ごめん。
バカにしたとか、そういう意味じゃなくて。ちょっと意外だったから』

「意外って…。
悪かったわね。
あたしだって転びますー」

嫌味たっぷりに言い返してやる。


『そりゃそうだけど。
初めて見た時から由愛は完璧っていうか…なんかお固いイメージがあったんだ。

でも、さっきの見たらドジなとこもあるんだ。って思って』


蒼の言いたい事は、なんとなく自分でも理解できた。



夜のあたしは他人に、まず"柔らかい女の子"とかいう印象を与えることはないだろう。



赤の他人に弱い自分なんて見せられない。


弱味に浸け込まれたら敗け。

常にそんな風に考えていたから。



中身も心もボロボロで、少しの衝撃で崩れそうなくらいに脆くても、

表面だけは強くありたかった。


もう…傷付かないために。




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