棘姫
気付けば午後5時になり、もう夕陽が沈みかけていた。
茜色に染められる温かみのある世界。
もうすぐ冷たくて真っ暗な夜が幕を開けるというのに…
あたし達は駅前から抜け、住宅街寄りの道を歩いていた。
『あのさ、ちょっとコンビニ寄っていい?』
蒼が前方を指差した。
「いいけど。
何か買うの?」
『ちょっと買い物頼まれてて』
客が少ないコンビニへ入る。
何を買うのかと思いきや、蒼はレトルトのお粥を手に取った。
「は?
あんた、そんなん買うの?」
蒼がお粥買うなんて、
ちょっと意外。
『うん。
あ、俺が食べるんじゃなくて…姉貴に買ってこうと思って』
「お姉さんに?
ぇ、風邪でも引いてんの?」
それなら、今日あたしと出掛けてよかったんだろうか。
『そういう意味じゃないんだ。風邪じゃないよ。ただ…最近、ご飯あんまり食べられなくなったみたいでさ…』
色のない瞳で蒼はあたしを見た。
直ぐに聞いてしまったことへの、後悔の念が込み上げてくる。
『モノを飲み込む。
っていう動作をしたくないんだって…』
その泣きそうな声を聞いた時
『俺の姉貴も似たようなことしてる』
以前、口にしていた言葉が蘇る。
そうか…。
蒼のお姉さんは――
『ごめん。
なんか変な空気になっちゃったね。コレ買ってくるから、待ってて』
あたしを安心させるように微笑むと、蒼はレジへと歩いて行った。
機械的な動作をする店員を横目に、会計を済ませた蒼とコンビニを出た。