棘姫
『まだ時間とか大丈夫?』
「全然平気よ」
『じゃあさ、
公園行かない?』
目を輝かせながら蒼は無邪気に笑う。
「…………はぁ?」
対して、あたしは開いた口が塞がらない。
一体、いくつなんだこいつは。
どうしてこういう突拍子のないことを、嬉しそうに言えるんだろう。
『ダメ?』
子首を傾げながら道の向こう側を目で示す。
そこには
「あっ…。
あの公園、こんな場所にあったんだ」
蒼に連れられ何回か足を運んだ、あの公園があった。
『ね、行こうよ』
「もう…、
しょうがないわね。
いいわ。付き合ったげる」
弟の我儘を聞く姉の気分で、あたしも微笑んだ。
あたし達は一先ず、少しペンキの剥げてしまったベンチに腰掛けた。
来るのは初めてじゃないのに、いつもとは違う新鮮な気分。
公園なんて…自主的に足を向けたのは何年ぶり?
『俺さ、公園結構好きなんだよね』
唐突に蒼が言った。
「へぇ、そうなの」
『うん。
幼稚園とか小学校の頃とか。毎日遊びに来てた』
和やかな空気があたし達を包む。
なんでこんな平凡な会話してるんだろう?
蒼と話していると、時々そう思ってしまう。
大人になるにつれ、もうほとんどの人が忘れてしまったかのような、純粋な気持ちが蘇ってくるよ。
なんとなく…
李羽と蒼は似ている。
そう思う度、あたしの心は暖かくなっていく気がするんだ。
『それで、いつも幼稚園の頃とか親が迎えに来てくれんじゃん?それが…すっごい憧れだったんだ』
少し掠れた声色。