棘姫
本当ならこんな事実、誰にも言いたくないし、言うつもりだってなかった。
でも…蒼になら話してもいい。
不思議とそんな気持ちになったんだよ。
初めて蒼と出会った夜。
あたしから同じ空気を感じたと言っていたでしょ?
その時は否定してたけど、今ならあたしも納得出来るの。
同じ空気を持つ者同士でしか、分かり合えない事は確にある。
だったら、蒼?
あなただって、少しでも自分の事を…あたしに話してくれますか?
祈りに似た気持ちで蒼を見つめる。
もうすぐ完全に姿を消してしまう夕陽に、右耳のピアスがキラッ…と淡い光を放つ。
『俺と似てる。
俺は、物心付いた時には母さんがいなかった』
ゆっくりと、
蒼も記憶を辿っていく。
『父さんは一応いたんだけど…あまり家庭を顧みない人でさ。女ばっか作って、家にもたまにしか帰って来なかった。遊んだ記憶なんて全然ないよ。
俺は5歳上の姉貴と、3歳上の兄貴に育てられたようなもんだしね』
本当の親がいたけれど、愛を感じなかった蒼。
本当の親はいないけれど、ちぃちゃんに愛され育ったあたし。
本当に辛いのは…
一体どっちなんだろう?