棘姫
『俺が小学校3年の時、だったかな。父さんが…消えた』
夕陽は完全に沈んでしまった。
薄暗い公園を静寂が包み、少し肌寒く感じる。
さっきまではとても…温かい景色に感じられたのに。
『残ったのは莫大な額の借金だけ。未だに何も分かってない…生死すらも』
低めの声で、
淡々と告げられた過去。
あたしは掛ける言葉も見付からなかった。
"今まで辛かったでしょ。・そんなの酷いよね。"
こんな同情のセリフが浮かび上がったけど、結局はこんなの…表面上の慰めにしかならない気がした。
蒼の気持ちは、たったそれだけの言葉で片付けられるものではないはずだから。
「その借金返すために、蒼のお姉さん達は…夜の仕事を?」
蒼があたしに過去の事を話したのは多分、かなりの勇気が要ったと思う。
慎重に言葉を選ぶ。
必要以上に蒼に踏み込みたくなかったし、純粋で脆い心を更に傷付けたりしないためにも。
『そう。
昼間働くよりも、夜の仕事に就く方が給料はかなりいいからね』
「お兄さんはホストなんだよね。それで、お姉さんは…あたしと…」
その先を続けられない。
同時に蒼が、援交してるあたしを本気で突き放さない理由も――
分かった気がした。