棘姫

『風俗嬢。
それが…姉貴の仕事』


あたしが躊躇って中々言えずにいた単語。

蒼は意図も簡単に言い切ってしまった。


『元々は姉貴も援交から夜の世界に入った。

「援交しようと思う」
最初、姉貴から言われた時は俺も兄貴ももちろん反対したよ。でも…でも――』

一端言葉を切り、蒼は表情を歪める。

こっちまで苦しくなってきて、あたしは蒼の手に自分の手を重ねた。




『「そうしないと、一生このお金は返せない。あたしの心が揺らがない内にやらせて。お願い…」

泣きながら姉貴は頼んできたんだ。俺も兄貴も何も言えなかった。

"体を売るのは汚い"
そんな綺麗事言ったって、現実は決して変わってくれなかったんだ…』

蒼は小さく声を震わせながら言った。


あたしはさっきよりもギュッと力強く手を握る。

そうでもしないと、今目の前にいる蒼は消えてしまいそうな程に儚く感じたから…




『でも、やっぱり後悔する時がある。もっとよく考えれば、他に道はあったんじゃないか、って。姉貴が援交しなくても済む方法が…あったんじゃないかって…。俺は姉貴を止められなかった。苦しそうな姿を、黙って見てる事しか出来ないんだよ。
だから…俺は由愛を本気で助けてやれないよ…』

泣きそうな声で、蒼はあたしにここまでを話してくれた。


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