棘姫
ほとんどの生徒が下校してしまい、やけに静かな廊下。
北校舎は主に、音楽室や美術室といった教室ばかりが集まった校舎なので、心細くなるくらいに静寂に支配されていた。
トイレの水道も確認するため、女子トイレに入ろうとした時。
タバコの煙のような臭いが鼻先をかすめた。
トイレに隠れてタバコを吸ってる生徒がいる。
そんな噂を聞いたこはとあったけど、まさか実際に遇ってしまうなんて。
なんか、入りにくいなぁ…。
入り口に立ち、中へ入るのを躊躇っていた私。
すると、そんなことお構い無しに中から声が聞こえてきた。
『ねぇ。
さっきの話、マジ?』
『さっきのって?』
話してるんだから、まだ出てくる気配はなさそう。
一個くらい確認しなくてもいいかな。
諦めて、そのまま立ち去ろうとした時
『だからっ。
あの由愛が男と腕組んで歩いてたって話!』
由愛の話…?
気付いた時には足を止めていた。
盗み聞きなんてしたくないけど、妙な不安感に支配され動けなかった。