棘姫
『あぁ。マジやって!!
あたし、しっかりこの目で見たもん』
『なんか意外ー。
でも、確か彼氏いないんじゃないの?』
『それ思った!!
それがさ、相手の男…明らかに30代なんだって!!』
なんだろう…。
さっきから心臓が煩いくらいドキドキしてる。
"聞いてはダメ。
今なら逃げられる"
まるで、体が警告しているよう。
でも…
逃げてはダメ。と言ってる気持ちのが大きい。
好奇心や面白半分とか、そういう意味じゃない。
もっと、別の理由で。
『えぇ〜ヤバくない?
それってさぁ―――』
『『援交じゃない?』』
バカにするような笑い混じりに発せられた2人の声。
持っていた容器を落としそうになった。
由愛が援交…?
『有名な完璧美少女が援交やってるなんてね〜』
『意外じゃない?
マジ、ビビったし。
しかもその後ホテル入ってったんよ!!』
『ヤダー!!
軽く犯罪じゃん?』
そこまで聞いた時、私は逃げるように走り出していた。
聞ける限界を越えた気がしたから…。
嘘だ…、
絶対嘘だよ。
その人を由愛だと断定する根拠なんか…無いに等しいもの。
そんなの、ただの見間違えに決まってる。
だって、由愛はこんな私と友達になってくれた子なんだよ?
私なんかより、
ずっとずっと優しい。
あの由愛がそんなことするわけないよ…。
ただ信じられなくて、心の中で必死に由愛を庇う。
そんな私の耳に、軽蔑するような笑い声が何度もこだました。