棘姫

「本当に何もないから。
恭哉はいつも私のこと、心配しすぎだよ」

わざと明るい声で笑いながら言った。

ほんの、
軽い気持ちだったのに。



恭哉はピタリ…と立ち止まってしまった。


私達を取り巻く空気が一瞬にして変わる。

いつもの心地いい沈黙じゃなくて、重く息苦しくなりそうな沈黙。





「恭…哉?」

不安になり、小さな声で名前を呼ぶ。

『なんで…』

恭哉も聞いたことないような小さい声を出した。



『なんで何も言ってくれないんだよ…』

恭哉の表情は苦しみに満ちていた。


心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。




『李羽はいっつもそうじゃん。何かあっても"大丈夫・平気だよ・何にもないよ"それしか言わない。
本当は全然平気じゃないくせに、俺には何一つ話してくれないだろ。なぁ、なんで?俺は…そんなに頼りない?』

恭哉は悲しそうな笑みを浮かべた。

まるで、自分自身を嘲るように。


一気に蓄積されていた罪悪感が込み上げてくる。




「違う…違うよ?
ただ、心配や迷惑掛けたくなかっただけなの。頼りないなんて思って――」

『迷惑だなんて思わない。むしろ、もっと頼って欲しいよ…』

切な気に歪む表情。


私が恭哉をこんな表情にさしてるんだ…。

やっぱり私は、恭哉を苦しめることしか出来てないんだね…。


< 97 / 134 >

この作品をシェア

pagetop