棘姫
「本当に何もないから。
恭哉はいつも私のこと、心配しすぎだよ」
わざと明るい声で笑いながら言った。
ほんの、
軽い気持ちだったのに。
恭哉はピタリ…と立ち止まってしまった。
私達を取り巻く空気が一瞬にして変わる。
いつもの心地いい沈黙じゃなくて、重く息苦しくなりそうな沈黙。
「恭…哉?」
不安になり、小さな声で名前を呼ぶ。
『なんで…』
恭哉も聞いたことないような小さい声を出した。
『なんで何も言ってくれないんだよ…』
恭哉の表情は苦しみに満ちていた。
心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われる。
『李羽はいっつもそうじゃん。何かあっても"大丈夫・平気だよ・何にもないよ"それしか言わない。
本当は全然平気じゃないくせに、俺には何一つ話してくれないだろ。なぁ、なんで?俺は…そんなに頼りない?』
恭哉は悲しそうな笑みを浮かべた。
まるで、自分自身を嘲るように。
一気に蓄積されていた罪悪感が込み上げてくる。
「違う…違うよ?
ただ、心配や迷惑掛けたくなかっただけなの。頼りないなんて思って――」
『迷惑だなんて思わない。むしろ、もっと頼って欲しいよ…』
切な気に歪む表情。
私が恭哉をこんな表情にさしてるんだ…。
やっぱり私は、恭哉を苦しめることしか出来てないんだね…。