棘姫
『小さな頃からずっと隣にいて、誰よりも李羽に近い場所にいたつもりだった。けど、成長するにつれてどんどん距離が開いてく気がする。俺ら、近付き過ぎたのかな…』
呟くように言って、恭哉はクシャッと前髪を握った。
鼓動がさっきから煩い。
最後の一言を聞いた時、恭哉が離れていってしまう気がして急に怖くなった。
『今日は…別々に帰ろっか』
寂しそうに恭哉は笑う。
「ちが…ッ…ごめん、恭哉。私……」
『でも、これだけは覚えといて』
初めて、恭哉が私の泣きそうなか細い声を遮った。
『李羽が何を言っても、俺は李羽を嫌いにならないし、絶対に接し方を変えたりはしないよ。
じゃ、また…明日』
優しすぎる声でそう告げると、恭哉は背を向けて歩き出した。
遠ざかっていく背中。
追い掛けたいけど、今の私には追い掛けられないよ…。
喉の奥が熱い。
俯いた先に見えた固いアスファルトが滲んできた。
自ら恭哉の隣から消えることを望んだのに、いざ、恭哉から手を放されると…
こんなに苦しいなんて。
『もっと頼ってほしい』
恭哉がそんな風に思ってくれてたなんて全然知らなかったよ。
ずっと一緒にいたのに、何も恭哉のこと分かってなかったね。