棘姫
自分を守るのに必死で、恭哉が傷付いてるのすら気付けなかった。
…一体どれだけバカなんだろう。
やっぱり人間は
離れてからじゃないと、
失ってからじゃないと、
その大切さ・存在の大きさには気付けないの?
頬に冷たさを感じる。
恭哉のことで、こんな想いで泣いたのは初めてだった。
流れた涙をすぐに風が乾かし、ヒンヤリとした感覚だけが残る。
泣くなんて、自分勝手じゃない。
無意識の内に恭哉とも距離を置くようになったのも、すぐ隣にあった優しさを平気で跳ね返していたのも…全部、私。
今更泣くなんてただの我が儘だよね…。
溢れる涙を手の甲で拭いながら、初めて一人で帰り道を歩いた。