こちらミクモ探偵事務所5

自分で自覚していないのだろうか。
それが可笑しくて、彼女小さく笑った。

「そっか……次からは、もう少し気を付けないとね」

「……」

紘子は意を決し、男に向かって訊いた。

「貴方は私の事を知ってた。
……一体、貴方は何者ですか?それに、名前は?」

「……」

一瞬言葉に詰まったのか、男が口を閉じる。
しかし、彼はどこか残念そうに息を吐いた。

「そこ、訊いちゃうんだ。オレ的には、キミをあまり傷付けたくないんだけどな」

「どういう――」

「ねぇ、紘子ちゃん」

男は紘子に近寄ると、腕を回して素早く抱き寄せた。
手にはハンカチ。

「何を、する……!」

ハンカチで呼吸器を覆われ、上手く息ができない。
途端に、眠気が襲ってきた。

「何だ……これ……」

「――ねぇ、紘子ちゃん」

男はもう一度呼び掛ける。

立っていられない。
彼女はその場に崩れ落ちた。

「世の中、知らなくていいことだってあるんだよ」

それが、彼女の聞いた最後の言葉だった。

< 118 / 224 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop