こちらミクモ探偵事務所5
自分で自覚していないのだろうか。
それが可笑しくて、彼女小さく笑った。
「そっか……次からは、もう少し気を付けないとね」
「……」
紘子は意を決し、男に向かって訊いた。
「貴方は私の事を知ってた。
……一体、貴方は何者ですか?それに、名前は?」
「……」
一瞬言葉に詰まったのか、男が口を閉じる。
しかし、彼はどこか残念そうに息を吐いた。
「そこ、訊いちゃうんだ。オレ的には、キミをあまり傷付けたくないんだけどな」
「どういう――」
「ねぇ、紘子ちゃん」
男は紘子に近寄ると、腕を回して素早く抱き寄せた。
手にはハンカチ。
「何を、する……!」
ハンカチで呼吸器を覆われ、上手く息ができない。
途端に、眠気が襲ってきた。
「何だ……これ……」
「――ねぇ、紘子ちゃん」
男はもう一度呼び掛ける。
立っていられない。
彼女はその場に崩れ落ちた。
「世の中、知らなくていいことだってあるんだよ」
それが、彼女の聞いた最後の言葉だった。