こちらミクモ探偵事務所5
立ち去ろうとする紘哉の袖を、千尋が掴んだ。
「紘哉さん、1つ訊きたいことがあるんだけどいい?」
「何だ?」
「私さ、昨夜の事覚えていないんだ。
何か夢を見てたみたいで……それなのに、あなたは私の秘密を知っていて……よく分かんないや」
「……」
当たり前だ。
あの後、紘哉は睡眠薬入りのチョコを食べさせて、千尋を眠らせた。
何もしていない。
キスさえしていない。
それは紘哉の優しさであり、同時に酷いところでもある。
「やっぱり、夢だったのかなぁ」
不思議そうに呟く千尋から目を逸らし、紘哉はぶっきらぼうに言った。
「……あぁ、そうだ。あれは悪い夢だったんだ」
彼にはそう答えることしか出来なかった。