レガートの扉
だけど、柔軟かつ強気でなければ他国との折衝は上手く進まないのが現実。
交渉や商談で国内のように引いてしまえば、一気につけ込まれてしまう。
とはいえ、国々の常識に則していくのは大前提である。
さらに海外では、お酒が飲めることもまた大きな武器だった。
お陰様で社内では自慢じゃないけど、可愛げゼロだと評判上々だ。
「大人になった…って、もうすぐ大人10年目だけどね!」
そう言って締めると、三十路に片足を突っ込んだ自身を笑い飛ばす。
対する彼は返す言葉に困ったような顔で、ずっと私を見ていた。
――それは私たち2人が、あまりに遠い世界に生きている証拠。
当たり前の事実に傷つく。とうとう笑えなくなった瞬間、左手に触れられる。
「でも、律歌は優しいよ。
今日、来てくれた…。実際に今、俺の目の前にいるじゃん」
「っ、」
そっと重ねられた手の温度にびくりとした私は、小さく息を呑んだ。