レガートの扉


女の私が今も昔も嫉妬するくらい、手入れされている骨ばった長い指。


まるで音を奏でる如くしなやかな動きで、固まる私の指を絡め取っていく。


それだけのことがやけに扇情的に映るのはきっと、彼の職業ゆえだろう。



「俺は変わったから」

「……え?」

その発言で目を丸くした瞬間、近づいてきた彼にあっさり唇を奪われていた。


さも挨拶するかのような優しい触れ方は、ひどく私を戸惑わせた。


スッと離れていく彼の顔を呆然とただ見ていれば、困ったような顔でまた笑う。


「嫌だった?」

「いや、とか」

「それなら遠慮しなきゃ良かったな」

「な、何言って、」

「――3年前は手放すしかなかった。
いや、それしか無かったと思ってた」

「の、ぞむ」


平静を装いたいのに、頭の中では不安と困惑とが次々に押し寄せていた。


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