レガートの扉
【3】
望と別れたあとの3年間のあいだに、友人の紹介や誘われたコンパで恋愛に発展しかけた人がいた。
でも、何かが違った。ううん、…やっぱり一歩を踏み出せずに結局すべてダメ。
どうしても望と別の人を自然と比較してしまう自身が、なんて諦めの悪い女だと情けなくもあった。
手厳しい新たな上司の元での仕事は順調――なのに、心に空いた穴はいつまでも閉じてはくれない。
そこから逃げたくてデートをOKした人もいる。お酒の酔いに乗じてキスもした。大胆にセフレになろうと誘って来た人もいた。
だけど、そのどこにも心が焦がれるような想いは感じられなかった。
ふとした瞬間に取り巻くのは、ただの空虚感と自分の中で息づく彼への想いのみ。
誰かを好きになりたいのに出来ない、と孤独に泣いた夜だってある。
でも、望がコンクールで優勝したと聞いた時にようやく気づいた。
ニュースで久しぶりに彼の顔を見て高鳴り始めた鼓動に、もう認めざるを得なかった。