レガートの扉
「わ、別れたあとに、…私も、すごく後悔した。何であんな言い方したんだろう?って。
でも、新しい恋しなきゃって、これでも焦って、頑張っていたんだよ?
だけど、望がコンクールで優勝した時に、…ニュースで見て思ったの」
だから私はそれ以降、やる気のない婚活を日常からシャットアウトしていた。
確かに友人や社内の年下の子が結婚・出産するにつれて、焦りを感じたこともあるけど、きっぱり諦めたのだ。
――テレビの映像に心を掴まれた瞬間、悟りを開いたのもまた事実。
「もう、もう…ほんとに、遠い人になったんだって、」
たどたどしく紡ぎ出す私の言葉を待って、静かに頷いていた望の顔が見えなくなる。
次々と零れ落ちていく涙は、もう止めようがなかった。それを掬うように、綺麗な指先が頬に触れる。