レガートの扉
【1】
「あ、律歌(りっか)ここ!」
「ごめん!寝坊した!」
お昼時で混雑する、雑穀米が美味しいと評判のヘルシーな和風カフェにひとつの声が響いた。
手を振ってくれた彼女の向かいに着くなり、両手を合わせて素直に謝る私は、伊沢 律歌(いざわりっか)だ。
待ちに待った嬉しい休日にもかかわらず、謝罪から始まるとはツイテイナイ。
「いいよ、今日は律歌の奢りで許すから」
そう言って、店員さんを呼んだ由佳はやっぱり容赦も温情もない。
その一言を呑んだ私も、彼女に続いて五穀米ランチをオーダーした。
「昨日まで中国だっけ?」
「うん、弾丸だったけどねぇ。ちなみに来週は香港」
「また?…あんた、ほんとにワーカーホリック寸前じゃん」
「失礼な」
もう慣れっことはいえ、彼女から毎度かけられる言葉に顔をしかめた。