レガートの扉
暫くして会場時間を迎え、続々と観客が席を埋め尽くす。
その薄暗いバーの中心で鈍い光を浴びて艶めく黒いグランドピアノを、私はずっと見つめていた。
すると割れんばかりの拍手に包まれて、タキシード姿の望がステージへと上がる。
今回の凱旋ライブの始まりは、愛の挨拶――
綺麗な指先で弾く繊細な音が、シンと静まる会場内に響く。
不思議な色気ある音色と、精悍な顔はファンの心を掴んで離さないとか。
今日もあっという間に、観客の心を彼のすべてが魅了していた。
うっとりした表情を浮かべる観客席の片隅で、ひとり生演奏を3年ぶりに聴いた私。
あまりの巧さで鳥肌が立つのと同時に、言い表せないほどの思いが蘇えって、またもや涙が頬を伝っていた。
やはり3年の月日は、私と彼を確実に変えているとも感じた。だけど、時は心までもを奪えはしない。
夢を追った互いを強くしてくれたと信じて、もう一度彼の傍にいたいから――
今日のライブ・タイトル、“PARTIE”の意味に、まだ彼女は気づいていない。
それは今夜――何度も肌を重ねるベッド上で、煌めくリングが薬指に填まる時に知るのだろう…。
*終*