レガートの扉
確かにこんな私だから、標準装備の女子力すら着実にゼロ地点へ近づいている。
突発的な商談と言う名の弾丸出張に、午前サマな残業続きの毎日は当たり前。
仕事に神経すり減らしている分、一人暮らしの自宅マンションは洗濯と掃除だけで精一杯。むしろ綺麗を保っているだけ、御の字にしたい。
さらに料理がからきしダメな私は、こういったヘルシーな外食が頼みの綱でもある。
仕事の充実度合いとは裏腹に、健康面に不安を感じ始めたのは否めないけど。
――一生独身で管理職を目指すキャリア生活ならば、老後も安心だろう。
そんな今後のプランをあっさり打ち砕くように、向かいの由佳が大きな溜め息を吐き出した。
「望くん、来週帰ってくるって」
「っ、」
「正紀が言ってたの。
あのお店でライブするから、一緒に行こうって」
正紀とは大学時代から付き合っていた、今は彼女の旦那様。もちろん私もよく知る人だ。
「……そう」
そこで食事を止め、短く返したその声は笑えるほどに震えていた。
「望くんに会いたくないの?」
その言葉に、静かに視線だけを返す。だけど射抜くような目を前に、情けないほど動揺している私がいた。