レガートの扉
由佳の発言に動揺してから1週間後――私はあるジャズ・バーで彼と再会することになっていた。
いま思えば彼女の強引な誘いを無碍にも出来ず、了承してしたのがいけなかったと思う。
なぜならバーへ到着した時、悲しいことに私ひとりであるからだ。
それは約束当日である、今日のお昼過ぎ――まさに出かける1時間前のこと。
旦那さまの正紀くんから由佳が体調を崩したと連絡が入り、私も当然キャンセルするつもりだった。
それを彼に行くように強く促されたため、気が乗らないままジャズバーを訪れたというわけだ。
やって来たのは、路地の一角にある小さな箱型のお店。このお店に来るのは今日で2度目だった。