レガートの扉
正紀くんが電話で言っていた通り、私が行く旨の話が通っていたため開店前のお店にひと足先に入れて貰えた。
案内された中央のテーブル席にひとり腰かけ、そこから準備に勤しむスタッフを静かに眺める。
華やかな世界の裏側を覗きながら、そこにはまだ望の姿はなくて安堵していた。
妙な孤独と疎外感に苛まれつつも、バックステージに顔を出す気はしない。…行けるわけがなかった。
別れたあとの3年。――短いようで長い時の経過は、彼との距離を遠くさせていたから。
それゆえ金曜の夜も、緊張のあまりよく眠れなかった。
木曜の夜遅くに香港から帰国した挙句、翌日もしっかり残業をこなして帰宅したというのにだ。
当然疲れはひどく溜まっているのに、目が冴えている自分に苦笑するばかり。
その時、テーブルに置いていた携帯が小さな振動で着信を告げる。
本体を開けば由佳からのメール受信だった。
[望くん、どうだった?]
彼女らしいたった一文のシンプルな内容は、今の私を追いつめるには十分で。
ただの再会に動揺している心が、ひどく子供に思えてならない。