蝶々が飛んだら
 今日は朝から雨で傘が手放せない。私にとって傘をさせていることは、とても都合がいい。

 私は、一つの恋を失った。

 傘のおかげで周囲の人に私の顔なんて見えない。だから、涙もうまく隠れてる。

 街を歩く人も私と同じく足元を気にしているから、誰も私のことなんて気にしていないかもしれないけど、誰にも見られたくなかった。

 そんな足元を見ているうちに、涙がとめどなく流れてくる。



 天気は晴れ。

「靴ひもがほどけてるよ」

「あっ……」

「蝶々結びが苦手なんだっけ」

 そう言って、靴ひもを結ぶ。

「私ね、小学生のときも友達に結んでもらっていたの。今は自分で結ぶけど、すぐほどけちゃうんだ」

 そう言う私を彼は優しい目でみつめていた。


 天気は雪。

 私の誕生日に、彼は靴をプレゼントしてくれた。

「靴ひものないタイプにしたよ」

「ありがとう」

 この時も笑顔だった。彼も、私も。

 それから雪が溶けて、桜が咲いて、気付いたら半年が経っていた。


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