恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
鼓動の早さを打ち消すように、駆け上がっていく階段。
心なしか手に持つ鍵が震えているような気がする。
「おかえり、紗夜香」
「ただいま、お母さん」
まだやましいことはしていないのに、何だか妙に後ろめたくて。
上手く目を合わすことができずに、そのまま部屋に籠もった。
取り出した携帯から、スクロールさせながら名前を探していく。
こんなこと相談できる人なんて限られる。
「香里奈ーっ!! どうしよう」
『ちょっと突然どうしたの?』
「明日、するって」
『は? 何が?』
「だから、彼が明日」
そこまで言いかけてハッとして口を濁らせる。
こんなこと、やっぱり恥ずかしくて相談なんてできない。
そんな冷静な判断ができなかったのも、それだけ私の頭の中が混乱していたからなのかもしれない。
明日家に行く……だなんて、バカなこと言ってしまった。
『ふーん、なるほどね』
「え?」
『紗夜香今から出れる? 私そっちの駅まで行くから、三十分後に待ち合わせしよ』