恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
恥ずかしいけれど、今は誰かに話を聞いてもらいたくて。
どうやら私の言うことが分かったらしい香里奈の言葉に甘え、
「ごめん、今からちょっと香里奈と会ってくる!!」
「紗夜香!! 十時までには帰ってくるのよ」
家を飛び出していた。
門限十時まで、後一時間。
僅かな時間だけどそれでもいい。
少しだけでもいいから、話をしたくて駆けていく。
一人で通り抜ける路地裏は相変わらず誰も通っていなくて、自分の足音や息遣いがクリアに聞こえてくる。
導かれるように香ってきた甘い残り香が、さっきの記憶を鮮明に蘇らせる。
したいって。
照れながらも真剣な眼差しで、飾り気のない本音をぶつけてきた。
ザワザワとそよぐ木々にかき乱される心。
私と颯平が。
す、る……。
例えようのない感覚に苛まれる。
グルグル、グルグル。
渦巻く感情が自分の本当の気持ちを彷徨わせる。
全速力で駅まで走った私は改札口近くで荒い息を落ち着かせ、まだ姿の見えない香里奈をプラットホームを眺めながら今か今かと待ちわびていた。