恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
「だって店長、穂積さんってくそ真面目なんっすよ」
「あー、昔の木原に見せてやりたいよなー」
遠い目をした店長から逃げるように、木原さんは苦笑しながら更衣室へ駆けていった。
いや、逃げたとも言える。
その様子をただ見ていた私は店長に促され、三人掛けの古びた革のソファーに腰掛ける。
カチャンと音を立て、目の前に差し出されたケーキとホットコーヒー。
「夏の新作の試食品が来たから、食べていきなよ」
「えっ、でも、私今日シフトでもないのに悪いです」
「いいから、食べなって」
私はお礼を言って、その言葉に甘えて頂くことにした。
フルーツがたくさん乗ったそのケーキ。
口にすると生クリームの甘味とフルーツの酸味がマッチして、鼻を擽る香りが口の中に広がる。
コーヒーを一口、今度は豊潤な香りが広がる。
甘いものを食べている時間って本当に幸せで、頬がとろけそう。
「あーっ、店長!! 俺の分は?」
「冷蔵庫に入ってるから、仕事終わってからな」
そこに戻ってきた木原さんは、私の隣に腰かけた。
あーん、と口を開いて催促し、店長に頭を叩かれる。
そんな様子を見て、笑いが込み上げてくる。
ふと、木原さんと目が合うと、
「俺はさ、昔、遅刻魔だったんだよね」
「そうそう。次やったら首だって何回言ったことか……」
これ見よがしにため息をついた店長も、正面のソファーに腰かけた。