恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
「たかがバイト、されどバイト」
「木原さん、それどういう意味ですか?」
首を傾げて問い掛ける。
丁度ケーキを食べおわった私は、フォークを置いて顔を向ける。
「懐かしいなー。俺が言った言葉だろ?」
「そーっすよ。店長に説教された時に言われて。あの時はその意味もよく分かんなかったけど、今ようやく理解しましたよ店長!!」
「遅すぎだろ」
「ハハッ。いやー穂積さん見てたら、何だかこういうことかーって、改めて思ったんすよね」
……私?
何だかよく分からずに視線を泳がせる。
その様子が可笑しかったのか、二人はまた笑って私は戸惑う。
手を伸ばしてカップを持ち、音を立てないように静かにコーヒーを口に含んだ。
と、木原さんが口を開いた。
「バイトなんてさ、代わりを見つけようと思ったらすぐ見つかるじゃん?」
「そうなんだよな。だから、ちょっと嫌なことがあるとすぐに辞める子が多くてね。次のバイト探せばいいって軽い気持ちでね」
「けどさ、突然辞められたら、当然俺たちは困るわけ!!」
「もちろん遅刻もな?」
「て、店長ーっ。そこは目を瞑って下さいよ……」
二人の会話に耳を傾けて真剣に聞いていた。
年上の人の言葉って、今まで自分が考えもしなかった言葉がよく飛び交う。
それが自分にとってプラスになるか、マイナスになるかは別として。
「あっ、交代の時間じゃん。じゃ、穂積さんおつかれー」
慌しく木原さんが去ったスタッフルームは、暫しの間静けさを取り戻していた。
フゥーっと息を吐く店長。
大きく背伸びをして、そして、私を見据えた。