恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜

「どうした? ボーッとして」

「へっ……? うわっ!!」

「ブッ!! 驚きすぎだろ」



気付けば間近にハル君の顔があって、思いっきり吹き出されてしまった。



「だって、先生がさ……」



ハル君の顔が近すぎて驚いて、ドキドキしているなんて……言えない。

照れ隠しから口籠もって俯くと、スッと温もりが消えた。

それが、手が離れてしまったのだと気づいたのはすぐで、



「ダメだなー」



気づかれないように、ポツリと呟いた。


寂しくて切なくて、何だか泣きそうになる。

頭の中で理解しているから。

今日がハル君と過ごせる最後の日だって。



「置いてくぞー?」

「えっ? まだチケット買ってないよ?」

「それならもう買ってきてるし、ほらっ」



そんな私の目の前に、チケットが差し出された。

慌てて財布を取り出していると、



「いいって、紗夜香は気にしなくて」

「でも! 誘ったのは私だし……って、先生!!」



私の言葉を無視して、先をスタスタと歩いていく。


もうっ。

……でも、ハル君らしいや。



「ありがと、先生」



追い掛けて行った背中に向かって声をかけると、笑みを浮かべて振り返る。

ただそれだけのことが嬉しくて、気分が少しだけ浮上した。



< 348 / 359 >

この作品をシェア

pagetop