恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
「いいから早く家に入りなさい」
声色は優しくて包み込むように温かくて、涙腺がだんだんと緩みだす。
とりあえずドアを閉めて靴を脱ぎ、お母さんに連れられて居間へとやってきた。
「連絡ないからそうとは思っていたけど」
相変わらず穏やかな口調のお母さんに私は頭が上がらない。
何度も「ごめんなさい」と小さく呟くしかできなくて、それが悔しくて仕方がない。
だって、うちは特別裕福な家庭でもなくて、団地に住むごく普通の一般家庭。
私立ともなれば公立の数倍もの学費がかかるってことぐらい知っている。
塾にだって通わせてもらっていたし、これ以上負担をかけたくなかったのに。
そんなに落ち込んではいなくても、お母さんを前にすると自分が情けなくて仕方がなかった。
「怒らないの?」
受験に失敗したこと。
そして、金銭的に迷惑をかけてしまうこと。
頭を上げて顔を見ると、お母さんはフッと笑って目尻を下げた。
「紗夜香が頑張ってきたのを知っているんだから怒るわけないでしょ。その代わり、これからも頑張らないと許さないけどね」