恋いトビ。〜Teacher,teach me ?〜
私の耳に手を添えて、こっそりと耳打ちをしてくる。
「今日はね、バイト」
バ、バイト?
って高校で禁止なのに。
体を離して白い歯を見せて笑顔を向ける香里奈。
「公立行きたくないから私立に行ったわけだし、やっぱ少しは稼がないとね。それにおしゃれするにもお金かかるしさ!」
そこまで言ったところで電車が駅に到着し、私たちがいる側のドアが開いた。
「バイバイ」と言って手を振り、流れに乗って電車を降りていく香里奈の姿を目で追う。
一人車内に残った私は、本当に一人取り残されたような気分になった。
ドアが閉まり、電車は再び動きだす。
ガラスに手を添えて、ガラス越しに景色を眺める。
立ち並ぶビルは目まぐるしいスピードであっと言う間に目の前から消え、次から次へと移りゆく。
その遥か彼方でそびえ立つ山は、その形を長い間変えることはなく、景色はゆっくりと移りゆく。
私は、その更に向こう。
いつまでも続く青い空。
今、どこを見ていたのかさえ分からなくて。
まるで彷徨う迷子のように、自分の立ち位置が見えない。